父と子の絆が生んだ、 五日間かけて仕込む「秘伝の旨味だし」

餃子屋本舗の餡には、創業時より先代が長年かけて作り上げた「濃厚な旨味だし」が練り込まれていました。

しかし2019年11月28日、先代は事故に合い二ヶ月間入院することになり、急遽二代目がだし作りを継承することになりました。
これを機に、先代と二代目はだし作りを語り合うようになり、新たな「だしの開発」を二人で取り組む決意をします。

二人は意見を出し合い、ありとあらゆる素材からだしを引いて味を確かめていきました。
毎日のように新たなチャレンジが行われ、何度も何度も試行錯誤が重ねられ、ついに「秘伝だし」が誕生します。
それは二人の47番目のレシピでした。

そのだしは、A4クラス和牛の筋、錦爽どりの鶏ガラ、仔牛の骨、牛すね肉、牛アキレス、三元豚の背骨、香味野菜をオーブンで半日かけて焼き上げた後、36時間煮出して作られます。
オーブンで焼き上げる理由は、肉の焦げた香ばしい旨味をだしに閉じ込めることが出来るからです。
最終工程では余分な脂を手作業で丁寧に取り除き、天然真昆布・どんこ干し椎茸・干し貝柱のだしを重ねます。
五日間をかけて丹念に作り上げられる「秘伝だし」は自然の旨味たっぷりの極上の味。
餃子に息づくこの旨味は、先代と二代目の努力の結晶なのです。

無化調にこだわる理由

その昔、餃子屋本舗は無化調(化学調味料を使わないこと)ではありませんでした。
それを変える契機はレンコン餃子のレシピ開発でした。

二代目が初めて商品開発に取り組んだ際に、全国各地のレンコンを食べ比べる中で佐賀の「白石レンコン」と出逢います。

二代目はその美味しさの虜になり、白石レンコンの特別な味わいを閉じ込めようと、試作を重ねましたが、どうしても白石レンコンの良さを生かす餃子を作れませんでした。
素揚げや蒸したままで食べれば感動するほど美味しいのに、餃子にすると埋もれてしまう。
それなら「白石レンコンを餃子にする必要はない」と二代目は開発を放り投げてしまいます。

それと同時期、二代目は先代より餃子餡の製法を受け継いでいました。
当初は先代の味を守っていた二代目でしたが、更なる進化を求め、どうしても雑味の出る化学調味料を減らして自然のうまみを加えていき、ついには無化調にしてしまいました。
ある時、ふと新しい餡でレンコン餃子を作ってみると、なんの工夫もしていないのに「白石レンコン」の味が際立っていました。

そこで二代目は気付きます。
「白石レンコン」の味を隠していたのは化学調味料だったのです。

そもそも、レンコンの美味しさは淡く儚いものです。
そこに化学調味料と合わせると、その味の強さに白石レンコンの良さは負けてしまうのです。

けれど、二代目は化学調味料を使わないレシピはコストが倍以上に高くなるので、最初は元に戻そうと考えていました。
しかし二代目には、このレンコン餃子と同じように、素材の美味しさを伝える様々な餃子を開発して届けたいという強い思いがありました。

二代目は悩みに悩んだ末、無化調の道に進むことを決意したのです。

岩手県に直接出向いて特注した南部鉄の餃子鍋

その昔、餃子屋本舗はデパートへ「冷凍生餃子」の出張販売に出ていました。
デパートは安全上ガス火が使えず、試食はホットプレートで調理していました。
ところが、ホットプレートは火力が弱いため満足のいく餃子に仕上がらず、試しに南部鉄の家庭用餃子鍋を使ってみたのです。
すると、火力は変わっていないにも関わらず、味が見違えるほど良くなりました。

興味を持った二代目は店舗に戻って味比べをします。
家庭用の5mm厚の「南部鉄の鉄鍋」とプロ用の20mm厚の「餃子焼器」を同じガス火で焼いて戦わせてみたのです。
結果はなんと、家庭用南部鉄の圧勝。
感動した二代目は業務用サイズの南部鉄の餃子鍋が無いか探しまわりました。
しかし誰に聞いても「そんなものは聞いたことが無い」と一点張り。
メーカーに特注の相談をするも門前払い。
そんな中で唯一話を聞いて下さったのが、嘉永五年創業の南部鉄器メーカー「及源鋳造」の及川社長でした。

及川社長は自分達にしか作ることが出来ない、高い調理性能の南部鉄器「上等鍋」があると言いました。
二代目はすぐさま岩手へと飛び、その性能の高さに感動し、及源鋳造に特注餃子鍋の製造をお願いしました。

餃子屋本舗の特注餃子鍋は、一般的な南部鉄器よりも表面温度が高く輻射熱も豊富なため、羽根はパリパリ、焼き上がりはフワっとジューシーな焼き上がりを実現しています。
世界でここにしか無い餃子鍋で焼き上げる特別な味わいを、ぜひお楽しみください。

ひとつの餃子を1年以上かけて完成させる理由

餃子屋本舗では、ひとつの餃子を完成させるのに何年と費やすことも珍しくはありません。
それには「本物のおいしさを届けたい」という二代目の強い執着心が影響しています。

「ポルチーニ茸と白トリュフの濃厚クリーム揚餃子」を開発した時のことです。
元々「ポルチーニ茸のクリームリゾット」が大好物だった二代目は、どうにかその美味しさを餃子で実現できないかと試作しましたが、中々うまくいきません。
中身がはみ出てしまったり、味に納得がいかなかったり。
それでもめげずに何度も試行錯誤をしてようやく完成したこの餃子は、発売してからたちまち人気になりました。

しかし、二代目は疑問を感じます。
「私の餃子は単なる真似事ではないか。これでは感動を届けるなどほど遠い」
本物の「ポルチーニ茸のクリームリゾット」と比べて、劣等感を感じていたのでした。
そこで、再び改良を加えるべく、毎夜営業終わりに試作を繰り返しました。

分かったことは、ポルチーニ茸のクリームリゾットの美味しさの秘密は「コンソメが鍵」ということでした。
とはいえ、コンソメは非常に手間がかかるため、イタリアンやフレンチでもレトルトを使う時代です。
しかし、真似事ではなく、餃子の中に本物の味わいを閉じ込めたい二代目はコンソメを作る道を選びました。

しかし、それだけでは満足できませんでした。
もっとポルチーニの風味を際立たせようと、ポルチーニ茸のグレードを上げ、香りを引き出す手法も独自に編み出します。
そして、発売から二年かかって、ついに納得できる「ポルチーニ茸の濃厚クリーム揚餃子」が完成したのでした。

これはこの餃子に限ったことではありません。
どの餃子も同じく、毎日のように改良が加えられています。
餃子屋本舗にある17種類の餃子は、どれも一夜にして完成したものではありません。
妥協することなく歩み続け、ようやく手にしたものなのです。

手包みと生餃子にこだわる理由

餃子屋本舗は2017年のリニューアルまで、餃子を機械を包んでいました。
機械は人よりも10倍早く餃子を包めるため、1週間分の餃子を1日で包んで冷凍して調理していたのです。
スピードと効率を考えると、手作業は機械に到底かないません。
しかし、それでも二代目は手包みにしました。

手包みの最大のメリット、それは機械より1.5倍も多く餡を入れられるという点です。
「手で包んだ方が餡がたくさん入って美味しいし、冷凍しない方が味が落ちない」
「それなら、その日の餃子はその日に包めばいい」
二代目はそう考えましたが、まわりは猛反発しました。

17種類もある餃子をその日に包んで提供するのは確かに無茶です。
しかし、二代目は強行突破します。
二代目には質が落ちると分かっていながら冷凍することや、餡が少ないと分かっていて機械を使うことが許せなかったのです (通販を開始したのは後に冷凍しても味が落ちない手法が生まれたためです)。
もちろん最初はトラブルが連発。
オーダーは溜まり、店中から「餃子はまだか」という声が飛んできました。
しかし、少しずつオペレーションや工程を工夫し、今ではスムーズな提供体制を築けました。
その甲斐あっての今の味なのです。

こんな非効率なことをするのは、どう考えても今の時代とは逆行しています。
しかし、そのこだわりは、きっと伝わる。
私たちはそう信じて毎日17種類の餃子を手包みしています。