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日本料理の技を用いて”丸ナスのトロトロの蒸し餃子”を作ってみました
新餃子の開発日記をスタートします
ご覧いただき有難うございます。餃子屋本舗 二代目の楠祐哉(@Kusunoki_Yuya)です。
現在お店はテイクアウトの営業だけをしています。三度目の緊急事態宣言、そして延長。いつもは仕込みに追われていますが、どうしても時間が余ってしまいます。
この時間を無駄に過ごしてはもったいない。ちょうどいい機会だと思って、じっくりと料理の勉強をしていました。
料理の専門書を開くと様々な餃子アイデアが浮かびます。このブログでは、そこでイメージされた餃子たちを形にする様子をシリーズで公開していきたいと思います。
ちなみに、販売するかどうかは別に考えています。頭の中では美味しいけど、作ってみたらイマイチなこともあるからです。ここでは、成功も失敗も公開して、私が奮闘している普段の様子をお届けしたいと思っています。
最初のお題は旬のナスを使った餃子
ブログ公開の一発目の記事。どの食材をメインにしようか迷いましたがナスにしました。初回にしては地味ですね…ナス。私は好きですが、あなたは?
私が思い描いたナス餃子のイメージは「ナスのやわらかな食感・一番出汁(だし)の風味・味噌の味わい・うす皮の蒸し餃子」という感じです。単品で選ばれるというよりはコースの中でこそ光る、名脇役のような餃子です。
和食の会席では、焼き物にたどりつくまでに、先付・椀物・しのぎがあります。それらは素材を活かした味が多いですが、だからこそメインの焼き物が際立ちます。
それと同じように主役を引き立たせる餃子が欲しいと前々から思っていたのです。
天然真昆布を60度で1時間煮出して鰹の一番だしを作る
まずは和食にかかせない出汁(だし)を引きます。
最近の日本料理では出汁の引き方が変わってきています。昔は昆布を前日から水に漬けおいて、沸騰前に取り出すのが基本でしたが、現在は乾物のまま水に入れて60度で1時間かけて煮出す方法が主流です。
東京海洋大学をはじめとする数々の大学が最も昆布の旨味成分「グルタミン酸」を引き出す方法を研究し、上記の方法が最も優れていると結果を出しました。
それ以降、和食の名店でも、この方法で出汁を引く所が増えているそうです。
私は昆布10gに対して水300~600ccを基準にしています。通常の和食店では10gに対し1000ccくらいの分量なので2~3倍は贅沢に使っています。
鰹節は85度で10秒で旨味を抽出する
1時間経ったら昆布を取り出して、85度まで上げてから鰹節を入れ、10秒ほどで濾します。鰹節は鮮度が命。ほんのり赤みを帯びているのが良い鰹節の証です。
鰹節は85度以上の温度になると雑味やエグさが出るので注意が必要です。
こうして引いた出汁は昆布と鰹の旨味が利いた極上の味わい。琥珀色に澄み切っていて旨味と香りが豊かです。和食の出汁はシンプルな分だけごまかしがききません。
そして、この出汁を急冷してから、薄口醤油、みりんを入れて浸け地を作ります。
八方だしにナスを浸ける
素揚げ・蒸す・生のままの3通りのナスを八方だしに漬け込みました。どれが相性が良いか調べます。
八方だしには、ほんのりとしか塩分はつけません。あくまでも素材の味を引き出すことを目的にしています。
3時間ほど漬けてから当店のだし入り餃子餡と和えて、うす皮の蒸し餃子にしました。
中のナスが熱々トロトロで一番だしがナスから滲み出てきます。出汁の風味も良く想像以上の出来栄えでした。ナスは素揚げにしたほうが、よりナス感を感じられたので、こちらを採用です。
また、ナスの種類は米ナス、水ナス、丸ナスと試しましたが、少しアクのある丸ナスが良さそうです。ほどよくアクがある方がナス感を主張していたからです。
夏を感じる味噌たれを作る
ナス餃子に合いそうな味噌を作りました。
レシピは赤味噌、白味噌、水飴、一番だし、干し椎茸の戻し汁、日本酒です。フライパンで火にかけながら合わせ、冷めてから、茗荷、大葉、生姜、煎ったゴマを入れました。
うん、かなりいい味です。ゴマは煎りたてなので香ばしい。茗荷、大葉がアクセントになっていて、初夏を感じます。
期待に反して、味噌をつけるとナスの風味が消えた…
仕上がりを楽しみにして試食したのですが、これが残念ながら失敗でした。
味噌が美味しいので悪くないのですが、せっかくのナスの風味が隠れてしまいました。私は足し算の料理をよくやるのですが、ここは引き算が必要なシーンでした。
何もつけずに味わえるように八方だしの味を調整するか、良い塩を少しだけ振る方が良さそうです。
余った味噌は焼きナスにして食べました
せっかく作った味噌がボツだったので、焼きナスにして食べました。食材の持つ水分だけで蒸し焼くようなイメージで火を入れました。うん、おいしい。
餃子を作るときに意識するのは、こうした料理に負けないことです。「なす田楽の方が美味しいよね」と言われてたら何をやっているのか分からないので。
「餃子にした方がおいしい」が私の目指している形です。
ナス餃子は大いな可能性を秘めた餃子でした
想像していたよりも美味しかったナス餃子。ただ、お店で出すには詰めが甘い。ナスのブランドを比べたり、八方だしの配合も見直したい。
あと、少しだけアクセントが欲しいような気がします。松の実…えのき…いや違うなぁ、うーん…..。
ナスの繊細さを壊さず引き立てる素材があるはずなのですが思いつきません。こういうときは自然と出てくるまで待ちます。ふとした瞬間に閃くので、その時が来れば、また試作したいと思います。
最後まで御覧いただき、ありがとうございました。Twitterではリアルタイムで試作の様子をツイートしていますので、もし宜しければフォローお願いします。
餃子屋本舗 二代目 楠祐哉
この記事を書いた人
餃子屋本舗 二代目店主。中華料理店の長男として1986年に生まれ、幼い頃より厨房で遊びながら料理を覚える。元々はジャズのプロベーシストだったが、リーマンショックの影響で経営が傾いたことを機に跡継ぎに。音楽への情熱を餃子に全て注ぎ、自分だけの餃子を目指して日々奮闘中。頭に浮かぶのはメロディよりも味覚の方が発想豊かだと気づき、近頃は餃子が天職だと感じている。(Twitterでは試作の様子をリアルタイムでつぶやいています)